クラスⅢの検査用SaMDを、医療機器製造業として設計開発から運用まで
お客様のコア技術に手を入れずにクラスⅢの医療機器に。上市後の運用・出荷判定までお引き受け
製薬企業の診断事業が手がける、先行品のない新しい検査。その中核となる解析技術は、アカデミアが公開している研究成果でした。学術の成果を、日々の臨床で使える医療機器として実用化する。当社はその工程を、医療機器製造業として受託しました。
クラスⅢ(高度管理医療機器)のプログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)です。検査に用いるソフトウェア単体が、医療機器として製造販売承認を受ける区分にあたります。
先行する類似品がありませんでした。「何をもって正しい検査とするか」という判定の拠りどころから固める必要があり、当社は学会が公開しているゲノム検査ガイドラインに立ち返って要件へ落とし込みました。検査そのものを設計する医学的な知見、対象とする遺伝子異常の定義、そして中核に据える解析エンジンの選定は、お客様の側にあります。当社の受託範囲は、その外側です。
当社は医療機器製造業として、このコアとなる解析アルゴリズムの中身には一切手を入れず、それを SOUP(Software of Unknown Provenance)として管理しながら、まわりを医療機器として成立させる領域を担いました。設計開発全般、IEC 62304(JIS T 2304)に沿った設計管理文書の全整備、AWS 上の運用システムの構築、そして上市後の運用と市場への出荷判定まで。薬事と開発を別チームに切り分けず、一つのチームで一体としてお引き受けしています。
関与は上市で終わっていません。2019年の立ち上げから7年、複数世代にわたる版展開、判定用データベースの定期更新、製造・据付・出荷にかかわる記録の整備、運用中に生じた事象への是正対応と手順改訂まで、現在も継続して担当しています。
リベルワークスが担ったこと
- コア技術に手を入れず、医療機器として成立させる
お客様が持たれている解析の中核は、アカデミア発のオープンソースプラットフォームです。研究の現場で実績のある技術です。当社はこの中身には関与せず、これを SOUP(Software of Unknown Provenance) として管理し、版・既知不具合・リスクを追跡する枠組みを設計しました。
クラウド上に組み上げるシステムのうち、どこまでが医療機器で、どこからがクラウド事業者の提供するインフラ(範囲外)なのか。外部エンジンを SOUP としてどう扱い、改版時に何を制約とするのか。この線引きを設計の最初に定め、以降の設計・検証・文書整備すべての基準としました。お客様の技術に変更を加えずに医療機器の枠組みへ収める点が、本件で最も検討を要した領域でした。
- 薬事と開発を、一つのチームで担う
薬事・品質の対応と、クラウドシステムの開発を別チームに分けませんでした。リスク分析(ISO 14971/JIS T 14971)の結果を機能設計へ反映し、設計上の判断を規格文書へ戻す。この往復を一つのチームの中で回すことで、規制対応と開発の間に生じがちな解釈のずれと手戻りを抑えました。リスク分析そのものも当社が主体で実施しています。
当社の立場は、医療機器製造業としての受託です。開発だけを切り出してお請けするのではなく、設計開発全般に加えて薬事・品質・全ドキュメントの整備までを、製造業の責任としてお引き受けします。さらに供給ベンダーに対しては当社が供給者登録を行い、監査する関係にあります。医療機器開発が初めてのベンダーとも、規格要求の水準をそろえて進めました。
- 上市後の運用・出荷判定まで継続して受託する
受託範囲は上市で終わりません。2019年の立ち上げから現在まで、版展開、判定用データベースの定期更新、製造・据付・出荷にかかわる記録の整備、運用中に生じた事象への是正対応と手順改訂まで、継続して担当しています。市場への出荷判定もお預かりしており、ソフトウェアのバージョンアップ後のリリース(デプロイ)判定は当社が行っています。
上市後に部門をまたぐ運用をどう回すか。各部門間の情報連携ルート、承認者、医療機関への説明(3省2ガイドライン)まで、お客様と詰めながら定義しました。設計開発だけでなく、運用の設計までお引き受けできることが、当社の受託範囲の特徴です。
事例概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| お客様 | 診断事業を持つ製薬企業(製造販売元) |
| 製品 | 検査用の解析プログラム |
| 領域 | ゲノム解析にもとづく検査 |
| 区分 | プログラム医療機器(SaMD)/クラスⅢ(高度管理医療機器)・製造販売承認 |
| 当社の立場 | 医療機器製造業として受託。設計開発全般〜運用、全ドキュメント整備 |
| 開発対象外 | 中核の解析エンジン(オープンソース。SOUPとして管理・組込)、診断薬・NGS機器、検査会社側の端末・ネットワーク |
| 基盤 | AWS(サーバーレス構成) |
| 準拠規格 | IEC 62304(JIS T 2304)/ISO 14971(JIS T 14971)/IEC 62366-1(JIS T 62366-1)/IEC 81001-5-1/QMS省令 |
| 体制 | 製造販売元・供給ベンダー・当社の3社協働。当社が上位工程と品質・整合を統括 |
| 期間 | 2019年〜継続。構想段階から上市、版展開、運用まで |
最初にいただいた3つの問い
ご相談は、具体的な問いの形で寄せられました。
クラウド上に組み上げるシステムのうち、どこまでが医療機器なのか。どこからがクラウド事業者の提供するインフラであり、医療機器の範囲外なのか。
オープンソースの解析エンジンを、SOUPとして扱えるのか。扱えるとして、品質はどう担保するのか。エンジンが改版されたとき、何が制約になるのか。
1日あたり【要確認:約300件】の検体をさばくAWS環境を、どう設計するか。
どれも、規格と薬事の要求を理解したうえで、クラウドアーキテクチャの側から答えを出す必要がある問いでした。当社は、この問いに答えるところから参加しています。
役割分担
当社は解析の中身には関与せず、それを医療機器として成立させる上位工程・品質・システム構築を担当しました。責任分界は次のとおりです。
| 主体 | 担当範囲 |
|---|---|
| お客様(製造販売元) | 製品コンセプト、製造販売承認の申請主体、診断薬・検体側、性能試験 |
| リベルワークス | 医療機器製造業として受託。設計開発全般〜運用、全ドキュメント整備、上位工程・品質統括、クラウドシステムの構築・維持、医療機器範囲の定義とSOUP管理、リスク分析 |
| 供給ベンダー | 詳細設計〜単体(ユニット)試験 |
| 解析エンジン(外部) | ヒトゲノム解析・コピー数解析のオープンソースプラットフォームを、SOUPとして管理・組込 |
当社は3社協働のハブとして、供給ベンダーと製造販売元の間でレビュー・品質・ドキュメントの整合を取りまとめました。供給ベンダーについては、当社が供給者として登録し、監査を行う関係にあります。ベンダーマネジメントも受託範囲に含まれます。
構築したシステム
基盤にはAWSを採用し、検査会社が検査データを送信し、クラウド上で解析を実行し、結果を受け取るまでの運用システム一式を構築しました。中核の解析エンジンはSOUPとして管理し、その周囲を医療機器として成り立たせる部分を設計・実装しています。
- アップローダ:検査会社に配布するクライアント。複数の検査会社に対応。
- セキュアな接続経路:検査会社ごとに配布するVPN。
- 解析ポータル:ジョブ登録、状態管理、結果取得、検査データの受領・保管。
- 解析ワークフロー:サーバーレス構成。前処理の後、検体種別に応じて処理を分岐し、同一性判定・コンタミネーション判定などの品質チェックを経てレポートを生成、ジョブ状態を更新。
- 判定用データベース:版管理と定期更新。作成手順は証跡とハッシュ値により追跡可能に整備。
- セキュリティ:脅威モデリング、監査、VPNによるアクセス制御。
製品固有の解析ロジック・内部構成は非公開のため、詳細は割愛します。
[要挿入 image: システム構成と当社の担当範囲(抽象化イメージ):検査会社の設備(診断薬・検体前処理、次世代シーケンサ、解析用端末)は医療機器の範囲外。検査会社へ配布するデータアップローダから、セキュアな接続でクラウドへ分析結果データをアップロードする。クラウド側には医療機器として定義した範囲があり、その中の解析ポータル・解析ワークフロー・判定用データベース・解析レポートは当社が設計・実装した。同じ医療機器範囲内にある解析エンジン(コアアルゴリズム)は当社の開発対象外で、SOUPとして管理・組込している。クラウド基盤サービスは医療機器の範囲外。]
*図:システム構成と当社の担当範囲(抽象化イメージ)。青=当社が設計・実装した部分、橙=当社の開発対象外だが SOUP として管理・組込している解析エンジン、グレー=医療機器の範囲外。破線の枠が、医療機器として定義した範囲(IEC 62304 の管理対象)です。製品名・解析エンジン名・クラウドのサービス名は含みません。*
難しかった点と、当社の打ち手
| 難しかった点 | 打ち手 | 成果物・証跡 |
|---|---|---|
| オープンソースの解析エンジンを医療機器に組み込む。SOUPとして扱えるのか、扱った場合に品質をどう担保するのか、改版時に何が制約となるのか。本件で最も検討を要した論点でした | SOUPとして版・既知不具合・リスクを管理する枠組みを設計。医療機器範囲/範囲外を明確に線引きし、改版時の影響評価手順まで定めました | SOUP管理表、基本設計書(AWS環境・医療機器範囲)、変更管理記録 |
| お客様の製品名で市場に出るソフトウェアとしての安全性。誤りは患者の検査結果に直結します。クラスⅢという区分の要求に加え、お客様のブランドを損なわない水準が求められました | 当社主体でリスク分析(ISO 14971)を実施。同一性判定・コンタミネーション判定などの安全機能を設計に反映し、ユーザビリティ・リスク・サイバーセキュリティの対応範囲を医療機器範囲より広げました | リスクマネジメント計画/記録/報告、安全クラス確認書、ユーザビリティエンジニアリング報告書、サイバーセキュリティ計画書、MDS2 |
| 巨大なファイルを、速度要求のなかで処理する。クラウド自体は当社にとって未知の領域ではありませんが、シーケンサー出力のファイルサイズと処理時間の要求は通常の業務システムと桁が違います | サーバーレス構成でのワークフロー分割、検体種別による処理分岐、ストレージとジョブ管理の設計をアーキテクチャ段階から検討しました | 基本設計書(AWS環境)、結合/総合試験 仕様兼記録 |
| 医療機器開発が初めての供給ベンダーと、規格要求の水準をそろえる。IEC 62304 が求める成果物の粒度は、一般的なシステム開発の慣習と異なります | 規格の意図と成果物の要求水準を、レビューを重ねながら共有しました。上位工程と品質判断は当社側に残す役割分担とし、供給者登録・監査の枠組みで品質を担保しました | 設計開発レビュー記録、供給者監査記録 |
| 検査全体のフローを止めない品質管理プロセス。検体品質管理のシステムも併せてお引き受けしており、月次の品質管理が現場の検査業務を阻害しない形で回る必要がありました | 検査運用の実態にあわせて月次の品質管理プロセスを設計し、システム側の手順と整合させました | 品質管理プロセス手順、関連設計文書 |
| 上市後の運用設計。承認後に誰がどう回すのか、部門をまたぐ手順を新たに定める必要がありました | 各部門間の情報連携ルート、承認者、医療機関への説明(3省2ガイドライン)を、お客様と詰めながら定義しました | 運用手順、据付・出荷関連文書 |
規制・品質への対応
設計開発は IEC 62304 の工程構成に沿って進め、クラスⅢの検査用SaMDに必要な設計管理文書を一式で整備しました。品質管理は QMS省令 に則り、3社それぞれの責任・役割を取り決めています。本件で対応した規格と、その中身は次のとおりです。
| 項目 | 規格・呼称 | 本件での対応 |
|---|---|---|
| 区分の呼称 | プログラム医療機器(医療機器プログラム/SaMD) | ソフトウェア単体で医療機器として承認・認証を受ける区分です。本件はクラスⅢのため、第三者認証ではなく製造販売承認にあたります |
| ソフトウェアライフサイクル | IEC 62304(JIS T 2304) | 設計開発の背骨です。計画・要件から検証、リリース、保守までの工程構成をこの規格に沿えました。適合を自ら示す「JIS T 2304:2017 適合概要報告書」を作成しています |
| リスクマネジメント | ISO 14971(JIS T 14971) | 当社主体でリスク分析を実施し、同一性判定・コンタミネーション判定などの安全機能を設計へ反映しました |
| ユーザビリティ | IEC 62366-1(JIS T 62366-1) | ユーザビリティエンジニアリング計画書・報告書を整備し、対応範囲は医療機器範囲より広く取りました |
| サイバーセキュリティ | IEC 81001-5-1 | 脅威モデリングを実施し、サイバーセキュリティ計画書と MDS2(製造業者開示説明書)を整備しました |
| 品質マネジメント | QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号) | 医療機器製造業としての品質管理体制です。同省令72条に則り、3社それぞれの責任・役割を取り決めました |
| クラス分類 | クラスⅢ(高度管理医療機器) | 承認区分です。設計管理文書はクラスⅢに求められる範囲をフルセットで整備しました |
| 承認 | 製造販売承認(PMDA審査) | 申請主体は製造販売元です。当社は技術文書の整備と審査対応の支援を担当しました |
| 外部ソフトの管理 SBOM |
SOUP(Software of Unknown Provenance) | オープンソースの解析エンジンを SOUP として管理し、版・既知不具合・リスクを SOUP管理表で追跡しています |
先行する類似品がない検査であるため、判定の拠りどころは学会のゲノム検査ガイドラインまで立ち返って要件へ落とし込み、要件・設計・試験を相互に追跡可能な状態にしました。動作の確認にとどめず、意図した使い方で正しく使えるかを設計バリデーションとユーザビリティ評価(IEC 62366-1)で確認しています。申請・審査の主体は製造販売元であるため、当社は JIS T 2304:2017 適合概要報告書を自ら用意し、設計移管まで整えてお渡ししました。
整備した文書は、工程ごとに次のとおりです。
| 工程 | 主な成果物 |
|---|---|
| 計画・入力 | ソフトウェア開発計画書、システム要求仕様書、安全クラス確認書、ソフトウェア要件定義書、要件トレーサビリティマトリクス |
| 横断(リスク・ユーザビリティ・セキュリティ) | リスクマネジメント計画書/記録/報告書、ユーザビリティエンジニアリング計画書/報告書、サイバーセキュリティ計画書、MDS2、脅威モデリング |
| 設計 | ソフトウェア基本設計書(AWS環境/UI/レポート出力仕様)、SOUP管理表、詳細設計書 |
| 実装・検証 | ソフトウェアユニット検証書、結合試験 計画/仕様兼記録/報告、総合試験 計画/仕様兼記録/報告 |
| 妥当性確認 | 設計バリデーション 計画/報告/実施記録 |
| 管理プロセス | 問題管理(問題一覧・問題報告書)、構成管理台帳、変更管理(変更要求兼承認・変更一覧) |
| リリース・移管 | 設計アウトプット検証、JIS T 2304:2017 適合概要報告書、JIS T 81001-5-1:2023 適合概要報告書、リリース手順書/報告書、構成ソフトウェアバージョン報告書、設計移管報告書 |
| 保守・マニュアル | ソフトウェア保守計画書、取扱説明書・マニュアル |
上市と運用
当社がお引き受けした範囲の納入は、ドラフト版・完成版とも、契約で取り決めた期日に行いました。プレ設計フェーズでの課題の先出しと、事前検証・多層レビューが、後工程での大きな手戻りを防いだ結果です。
上市までの期間そのものは、当初の計画より長くなっています。検査として意図した性能が出ているかを確認する性能試験に、お客様が必要な時間をかけられたためです。当社が設計したソフトウェアは、この性能試験による検証を経ています。
その後、お客様を申請主体とする製造販売承認(PMDA審査)を経て上市に至りました。当社は技術文書の整備と審査対応の支援を担当しています。システムは複数の検査会社が利用する形で運用に入りました。
受託は上市で終わっていません。2019年の立ち上げから現在まで、複数世代にわたる版展開、判定用データベースの定期更新、製造・据付・出荷にかかわる記録の整備、運用中に生じた事象への是正対応と手順改訂まで継続して担当しています。市場への出荷判定もお預かりしており、ソフトウェアのバージョンアップ後のデプロイ(リリース)判定は当社が行っています。
リベルワークスがお引き受けできること
- 医療機器製造業として、薬事・品質・全ドキュメントを自社の責任で引き受けます。 開発だけを切り出してお請けするのではなく、医療機器開発のアウトソーシング先として受託します。
- 薬事対応とシステム開発を別会社に分けません。 リスク分析と設計の往復を一つのチームで回します。リスク分析そのものも当社が主体で行います。
- お客様のコア技術に手を入れずに、医療機器として成立させます。 オープンソースを含む外部ソフトウェアのSOUP管理と、医療機器範囲の線引きを設計初期に行います。
- 供給ベンダーとの間に立ちます。 供給者登録・監査を行い、医療機器開発が初めてのベンダーとも規格要求の水準をそろえて進めます。
- 上市後の運用まで設計します。 部門間の情報連携、承認者、医療機関への説明、出荷判定・リリース判定までお引き受けできます。
- 長期にわたって継続します。 2019年から現在まで、版展開・データベース更新・是正対応を継続しています。
自社のコア技術を医療機器として上市するにあたり、薬事・開発・運用のどこまでを外部に委ねるか。その検討の段階から、ご相談をいただいています。当社は、お客様のコア技術が医療機器として世に届くまで、そしてその後の運用まで、継続して支えてまいります。
関連するサービス・実例
本件で担当した領域は、それぞれ次のサービスとして承っています。
- 医療機器ソフトウェアの受託開発 — 医療機器ソフトウェア・ヘルスソフトウェアの製品化までの受託開発。医療機器開発のアウトソーシング先をお探しの方へ。
- IEC 62304 対応(ソフトウェアライフサイクル) — 規格対応コンサルティング。ギャップ分析から設計管理文書の整備まで。
- 医療機器の認証・承認取得支援 — PMDA相談支援(伴走型)、承認・認証取得に向けた技術的支援、医療機器規格要求事項への適合支援。
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お問い合わせ
クラスⅢを含むプログラム医療機器(SaMD)の受託開発、薬事と開発の一体受託について、スコープと体制のご相談を承っています。医療機器開発のアウトソーシング先の選定、自社コア技術の医療機器化、QMS対応、上市後の運用まで、検討段階からお声がけください。医療機器開発が初めての企業様からのご相談も承っています。